ただし好きなジャンルはアクション、SF、ホラー。恋愛は得意じゃない。歯の浮くような台詞が、どうしてもぼくには受け付けないんだ。聞いただけで鳥肌が立っちまう。
最後に観た恋愛映画は『タイタニック』だったかな。
まだ小学生だったぼくには、豪華客船が沈む印象しかなかったけど。
「やっと返ってきたよ。この雑誌に書いてある映画の記事がおもしろいんだよな」
十二分に周りを確認して雑誌を開く。
そこには、大好きなホラー特集の映画記事がびっしりと載っていた。
『先取り夏のホラー特集』という見出しが目を引く。
夏といえばホラーだよな。
ホラーに関しては、日本のホラー映画を観るに限る。
「でも、この記事が推している映画はイマイチだったんだよな。開始三十分でオチが読めちゃったから」
誰も予想できないどんでん返しの結末があってこそ、最高のホラー映画だと思う。
ぼくはページをめくり、お行儀悪く昇降口まで歩き読みをする。
雑誌の記事に目を通すだけで、ささくれ立っていた気持ちが穏やかなものとなった。
腹が立ったら、好きなものを見て忘れる。それが一番だ。
だけど昇降口に辿り着く前に、
「中井!」
背後から怒号が聞こえてきた。
運が悪いことに学年主任の斎藤に見つかってしまったようだ。
別名"鬼の学年主任"と呼ばれる斎藤は、ぼくの手に持つ雑誌に気付くや、それは学校に持ち込むものじゃないと判断。
それを自分に見せろと命令し、ずんぐり太った腹を揺らしながら早足で歩んできた。