浅黒い肌。
細い眉。
たれ気味の目。

数年前の記憶の中と変わっていない姿が、そこにあった。


「……さん」


自分の声がちゃんと声になっていないことすら、わからなかった。


電車のドアが閉まる音がする。


アナウンスと、まわりの足音と、自分の心臓と、あの男の声と。


耳鳴りが、全部を消して、何も音を拾わない。


「――っ」 


足が勝手に走り出した。

何度も人にぶつかりながら、転びそうになりながら、とにかく走った。


あの男――叔父から、逃げたくて。