改札を通り、ホームに立った。

電車は、すぐにやってきた。


開いたドアから人が波になって降りてくる。

休日ということもあって、私服姿の人がほとんどだ。

入り口のそばで立つわたしの横を、人が次々に通りすぎていく。



 あと一本、電車が遅ければ

 地下鉄になんか、乗らなければ

 秋服を買おうなんて、思わなければ


そしたらわたしは、“あの男”に再会することもなかったのに。



「――葵?」


電車から降りて改札へと流れる波の中で、ひとりの男が立ち止まった。


わたしの名前を呼んだ。

この声を、わたしは知っていた。


ゆっくりと顔を上げ、その人を見る。


ドスン、と重いものが胃に落ちてきたような感覚と、全身に鳥肌が立った。


「やっぱり。葵やんか」

わたしを見てその人は笑う。

「久しぶりやなあ。元気にしてたんか?」