喪失という言葉が正しいかどうかはわからない。

けれどわたしの心には、はっきりと穴が開いた気がした。


まだ小さな穴のうちに終わらせることができてよかったんだ、
と自分に言い聞かせてなんとか過ごした。


毎日、教室に入ると瑠衣の姿を探す。

だけど彼はあれ以来わたしの授業に出ることはなかった。


――『俺、英語は水野先生の授業が一番好きです』


以前の瑠衣の言葉を思い出しては、
「あんな風に言ってたくせに」
と理不尽な不満が沸いてくる。

そのたび自己嫌悪に陥って、勝手すぎる自分を責めた。


たまに廊下で、瑠衣を見かけることがあった。

わたしにまったく気づく様子もなく、彼は友達と楽しそうにしている。

その中にはもちろん女の子もいた。


はにかんだ笑顔も、
肩をすくめる癖も、
わざとちょっと意地悪なことを言って、からかうところも。

こないだまでわたしに向けてくれていたものが、今はわたし以外の人に向けられている。



――『俺、好奇心で近づいたつもりはないで』


最後に瑠衣が見せた、哀しい瞳が何度もよみがえった。


ひどい言葉で傷つけたのは、わたしだ。

ブレーキをかけたのも、わたし。


だからもう二度と、笑顔で話しかけてもらえなくても……


これでよかったんだと、思うしかないんだ。