「え? ここでですか?」


運転手はあわてて車を左に寄せる。

急ブレーキで体が前のめりになった。


わたしは財布から一万円札を出すと、それを置いてタクシーを飛び降りた。


「お客さん! おつり!」


運転手の声が聞こえたけれど、無視して走る。



わたしの目は、おかしくなったんだろうか。


いるはずがないのに。


こんな時間に、こんな場所で、彼がいるはずないのに――



「片瀬くん」


ガードレールに座って、子供のように体を小さく丸める彼の、名前を呼んだ。

声が震えていた。


「なんで……まだここにいるん?」


質問に瑠衣は答えない。


代わりに顔を上げ、傷ついた瞳でわたしを見て、言った。



「先生のこと待ってるって、言ったから」