「あ、ありがとう」
「どういたしまして」
そう言ってにっこり笑ったのは、ヒロトだった。
「あ~っ、ヒロト、さっそく葵に声かけてるやん」
反対側に座る友人が茶化すように言った。
「今日はめずらしく葵が来るって聞いて、喜んでたもんな」
「お前なあ、そういうことを本人の前で言うなや」
言葉とはうらはらに嬉しそうな顔をして、ヒロトはライターをわたしのタバコの前に持ってくる。
彼に会うのは卒業以来だけど、存在は覚えていた。
わたしと同じ学部で、卒業前に一度だけ寝たことがある男。
緑色の百円ライターが、カチッと安っぽい音をたてる。
ゆっくりと煙を吐き出して、わたしは微笑んだ。
「久しぶりやね、ヒロト」
「そやな。誰かさんがほとんど飲み会に参加せーへんから」
あははっ、と声を出してわたしは笑った。
「講師の仕事もなかなか多忙やねんで」
「あ、そっか。今は予備校で働いてるんやっけ?」