わたしは何も言えなくて、ただ彼の後ろを歩く。


いっそのこと、当たって砕けてくれれば、良かったのに。

言葉にせず胸にしまったものを、いったいどんな風に育てようとしているんだろう。


「片瀬くんは……純粋すぎるねん」


つぶやくと、瑠衣は解せない顔をしてふり返った。

わたしは目をそらし、続けた。


「片瀬くん、わたしのこと美化しすぎてるよ」

「……どういう意味?」

「そのまんまの意味やで。
山崎先生のことだって、別にだまされてたとかじゃなくてわたし自身も割り切った関係やった。
……そういう女やねんて」

「なんで自分のことそんな風に言うん?」


顔は見えないけれど、怒ったみたいな声だった。


もっと怒ってくれればいい。

最低なわたしにあきれて、さっさと見切りをつけてくれればいいんだ。


でなきゃ、わたしの中でも育ち始めているものを、抑えきれなくなってしまいそうで、

怖かった。


「先生は、逃げてるみたいに見えます」

「……」

「俺が生徒やから? 年下やから?」