30分ほどすると少し天気が回復したので、わたしたちはビーチを後にした。


帰る道すがら、瑠衣がつぶやいた。


「結局、今日は俺が一番楽しんじゃいましたよね。すんません」

「そんなことないよ。わたしも久しぶりに海を見て嬉しかったし」


ありがとうね、と小さく言うと、瑠衣ははにかんで空を見上げた。


「先生、俺」

「ん?」


瑠衣が足を止めたので、わたしも立ち止まる。


「俺、先生のこと……」


瑠衣の唇が迷うように震えた。

まばたきを数回して、彼は大きく息を吸った。


「いや、何でもないっす」


ぶんぶんと首を振り、瑠衣は大股で歩き出す。

そして少し後ろを歩くわたしをふり返らず、どこか決意したような声で言った。


「今、これ以上言うと、たぶんダメになるから」

「……」

「当たって砕けるのはもうちょっと先にします」