「濡れたままだと風邪ひくから、ちょっとでも拭いた方がいいっすよ」


そう言って瑠衣は何度もわたしの髪を撫でた。

タオルも何も持っていないから、手のひらで雫を払おうとしてくれる。


どうして、こんなに瑠衣の手は温かいんだろう。

指の先まで通っている血を想像し、なぜか胸が苦しくなった。


「雨……嫌やね」


沈黙が気まずくて、わたしはそんなことをつぶやいた。


「そうっすか? 俺は嫌いちゃうけどな」


外の景色に目をやり、瑠衣は言う。


「虹を見たいなら、雨を我慢しなくちゃいけないんですよ」

「……うん?」

「って、アメリカの有名な歌手が言ってました」

「あははっ」



雨が降ったからって、必ずしも虹が出るとは限らない。

けれど瑠衣は、きっと虹を信じている。


信じることに必要なのは、強さじゃなくて、無知だ。


きれいな瑠衣がまぶしすぎて、視界がかすんだ。



これ以上関わってはいけないと、警告の音が高く鳴り響いていた。