「栗島くん……」


どうしよう。
今のやり取りを見られたかもしれない。

気まずさでわたしは黙りこんだ。


だけど栗島くんはまったく訝しむ様子もなく、むしろいつも以上に親しげに話しかけてきた。


「先生、ほら早く」

「え?」

「授業で理解できへんとこ、教えてくれるって約束したじゃないっすか。
あ、もしかして先生、忘れてる?」

「……」


これは、つまり助けられている状況ってことだろうか?


まずい状況には変わりないけど、とりあえず今は甘えることにした。


「ごめん。そうやったね」


山崎のそばを離れ、わたしは栗島くんの所まで早歩きした。


引き止めるような視線が背中に絡みつき、それを払いのけるように、くるっとふり返る。


「山崎先生。それじゃ、お疲れ様です」

「……お疲れ様です」


今にも舌打ちしそうな表情の山崎を残し、わたしと栗島くんはその場を離れた。