「じゃあわたし、そろそろ帰りますね」

「あ……うん」


立ち上がった涼子ちゃんにつられ、わたしもベンチを立つ。
 

ほんの30分程度の再会だった。

手をつなぎ駅の方へと歩く親子の後ろ姿を、わたしは見つめた。
 

そのとき、ふと涼子ちゃんは足を止め振り返った。


「そういえば、先生」


逆光で黒くなった顔が、やわらかく微笑んでいる。


「ん?」


「栗島から聞いたんですけど。
……瑠衣、元気にしてるらしいですよ。

今も彼女は作らずに、ひとりの人を想い続けてるって」



やさしい風が、そっと頬を撫でた。


バサバサと大きな音を立てて、頭の上で鳥が飛ぶ。


砂の地面に映る鳥の影は遠ざかり、やがて消えた。



「それじゃ……お元気で。さようなら」



さようなら――。


わたしは小さくつぶやいた。