「実は今日、どうしても先生に話しておきたいことがあって」
彼女の顔がこっちを向き、まっすぐに目が合った。
「6年前にわたしが言ってしまった、ひどい言葉を覚えてますか?
“先生はセックスできないんでしょう”って。
あれ、本当は瑠衣から聞いたんじゃないんです」
「え?」
「あの日――瑠衣の部屋に行った日、彼の机の上に、ある物を見つけたんですよ」
「ある物……?」
涼子ちゃんは深くうなずいた。
――あの日、告白するつもりで瑠衣の部屋に行った涼子ちゃんが見た物。
それは、性的トラウマに関する本や資料だった。
机の上に何冊も詰まれた本は、相当読み込んだ跡があり、いくつもふせんが貼ってあった。
瑠衣はわたしのために、必死で勉強し、理解しようとしてくれていたんだ……。
「あれを見たとき、わたしは先生の秘密を知ったんです。
同時に、瑠衣がホンマに先生のこと好きなんやって思い知らされて。
悔しいから“あきらめる前に一回だけ抱いて”って言ったら、あいつ、ちょっと抱きしめただけで
“ごめん、やっぱり無理”って」
「………」
「完敗でした」
そう言って少し寂しそうに涼子ちゃんは笑った。
一瞬だけ、6年前に戻ったみたいな顔で。