瑠衣がアメリカに旅立って3年。

わたしは今も独り身で、予備校の講師を続けている。


最近、ついに決心して心理カウンセラーのもとに通い始めた。
 

もちろん専門家に見てもらったからと言って、すぐに克服できるわけじゃない。

記憶を吐き出していくことで、悲しみと怒りに飲み込まれそうになることもある。
 


だけど、今度こそ自分の力で前に進むために。
 

自分の心も体も、両方大切にするために。
 

そしていつか、愛する人との赤ちゃんをこの手に抱けるように。
 



「――先生。あの頃のわたし、嫌な女でしたよね」
 

涼子ちゃんはふっと笑みを消し、唇を噛んだ。


「今頃こんなこと言っても許されないと思うけど。
瑠衣に愛されてる先生が羨ましくて、愛されてない自分が悔しくて。
それでやけになって、好きでもない男の人たちと遊んだりしてました」
 

でも、と言って涼子ちゃんは娘を抱きしめる。


「父親が誰でも、今はこの子がわたしの宝物です」

「ママぁ? どうしたの?」

「ううん。何でもないよ」


母と娘のやり取りを、わたしはそばで見つめた。


いろんなものを失っても、血を分けた我が子がそばにいる。

涼子ちゃんの表情は穏やかだ。