「お前……それって」
 

わたしの手に握り締められた手紙を見つけ、卓巳の顔がこわばった。


「行くなよ」


驚くほどすんなりと、その言葉が彼の口から出た。


「今さら会ってもどうしようもないやんか。あいつじゃ葵のこと幸せにできへんの、わかってるやろ? 
わざわざ傷つきに行くつもりか?」


わざわざ、傷つきに……?


卓巳の手の力がさっきよりも強くなる。

それと同時に、わたしの胸も痛くなった。


ずっとずっと支えてくれた人。

誰よりもわたしを理解してくれていた人。


この人とならきっと幸せになれる。

卓巳と、莉奈ちゃんと、私。

3人で穏やかに暮らす未来が待っている。


だけど……わたしは深く息を吸った。


「そうだよ」


かすれた声で、でもはっきりと答えた。


「傷つきに行く。それでも彼に伝えたい言葉があるから」

「………」

「ごめんなさい」


どのくらいの間沈黙していたののかわからない。


腕を掴む力が、ふっと弱くなった。


「謝るのは、まだ早いやろ?」