【ごめんな】


そんな言葉、望んでいない。

わたしがあなたに願ったことはただひとつ――どうか早くこの心から消えてほしい、それだけだったのに。
 

こんな手紙、これ以上読んじゃいけない。

便箋を封筒にしまおうとして、ふいに最後の文章が目に入った。


思わず息をのんだ。



【もうすぐ俺は日本からいなくなるから、その前に葵に会いたい。

7月5日、夕方の6時に、あのスターバックスで待ってる】



目を疑った。

それは今日の日付だ。

いや、正確には、さっきまでの日付。
 
時計を見る。

0時を超えている。

もう、いるわけがない。

いたとしてもわたしには関係ない。

だからダメ。

行っちゃダメだ。


――そう思ったときには、足が走り出していた。











「葵っ!」
 

後ろから誰かに腕をつかまれた。

卓巳だった。


「どこ行くねん、こんな夜中に!」

「卓…っ」


ドアを開けっ放しにした車が見える。

きっと夜道を走るわたしを見つけ、降りてきたんだ。


でも、“どこに行く”――その答えを口にすることはできなかった。

息を切らしたわたしは卓巳に腕をつかまれたまま、それでもまだ走り出そうとしていた。