――ごめんな、葵。

お前と別れて、もう何年も経つのにな。

今さらこんな手紙を送ったところで、きっと困らせるだけやのに。


でもな、いまだに俺の部屋は、お前でいっぱいやねん。

思い出になりそうな物は全部捨てたと思ってたのに、ふとした瞬間に見つけてしまうんやんか。

ふたりで買い物したときのレシートとか、一緒に観に行ったライブの半券とか。

なんでこんなん大事に持ってるんやろうって、自分でもあきれるような物ばっかり。



なあ、あのノートのことは、覚えてる? 

俺らがまだ先生と生徒だった頃、気持ちを伝えるためにこっそり使ってた大学ノート。


昨日部屋を片付けてたら、引き出しの奥から出てきてな。

久しぶりに読んで、情けないけど、ちょっと泣けたわ。



なあ、葵。


俺はアホやから今頃になって思うねん。


なんであの頃の俺は、お前を受けとめてやることができへんかったんやろう。


なんで俺は……抱けないお前を、抱きしめてあげへんかったんやろな――







「瑠…衣……っ」


ポストに手をついて立っているのがやっとだった。


どうして――。


せっかく手に入れかけた平穏な日々だったのに。

やっと少しずつ、涙を流す夜が減ってきていたのに。



なのに瑠衣。

どうしてあなたは、今になって手紙なんかよこしたの?