「なあ葵、聞いてくれって。涼子の子供はホンマに俺の子ちゃうねん」


信じられるがわけない。
 
頑なに首を振るわたしに、瑠衣の焦りが高まっていくのがわかった。


彼は、とうとうそのことを口にした。


「俺は――確かに俺は、あの日……涼子を抱きかけたよ」
 

人を傷つける告白は、時に、言った方がより傷つくもの。

瑠衣はまさにそんな感じだった。


「でもな、葵が来てくれたから、俺は間違いを犯さずにすんだんやで!?」


……そうなんだ。

あのとき言ってくれた嬉しい言葉は、そんな意味だったんだね。


「ねえ、瑠衣」


彼を見上げた。


「もしも涼子ちゃんの子供が、瑠衣の子じゃないとしても……わたしが瑠衣を苦しめてる事実は、やっぱり変わらへんのよ」

「……」

「ごめんね。瑠衣のことを好きになって。今までいっぱい我慢させて、苦しめたね」

「葵……?」


彼の瞳が揺れている。

大好きだった、きれいな瞳。


癖のある髪も、おっきな前歯も、わたしよりずっと高い背も、ちょっと意地悪な性格も。


全部、好きだった。


「瑠衣――」


本当に、全部が大好きだったよ。




「別れよう」






口に出してしまえば、

まるでずっと胸にあった言葉のように思えた。