「な、何やねん、それ。ちゃんと病院で確かめたんか?」


瑠衣の声が、途切れ途切れに聞こえる。

波の音は耳障りなノイズに変わる。


「……涼子ちゃんが、妊娠したの?」
 

電話を切った彼に尋ねた。

茫然自失のわたしの声は、どこか非難めいていた。


「うん……。3ヶ月やって」


3ヶ月。

無意識に逆算している自分に気づく。
 


言いたくなかったのに。

こんなこと、言うつもりじゃなかったのに――


「――瑠衣の子供?」
 

凍りついた彼の表情が、一瞬のうちにわたしを後悔に追い込んだ。


「葵、何言うてんの……?」
 

瑠衣は信じられないという顔で言う。

だけどわたしの心が、どんな言葉ももう受け付けなかった。


「前に瑠衣が、涼子ちゃんに告白されたって言った日あったやん? あの日、ホンマにそれだけだったの?」
 

瑠衣の喉仏が、つばを飲んで大きく動いた。

顔色はもはや死人のようだ。


「やっぱり……わたしみたいな女、瑠衣もホンマはうんざりしてたんやろ?」

「葵、違う」

「そりゃあ抱けない女なんか、誰だって嫌になるよね」
 

どうしてだろう。

涙すら出ない。

言葉だけが、どんどんあふれてくる。
 

彼も、自分も、苦しめるだけの言葉だけが。