朝が来なければいいと一晩中祈っても。

太陽は、当たり前に顔を出す。


わたしたちは昨夜を引きずったまま、新しい一日を始めなければいけなかった。


「海……見にいけへん?」
 

旅館をチェックアウトしてから、わたしは言った。

あんなことがあっても、まだわたしはわずかな可能性にすがりたかった。


「うん、見ようか」
 

優しくそう言ってくれたのは、瑠衣も“最後”を感じていたからなのかな。

 



大阪とは比べ物にならないほど、宿の裏の海は澄んでいた。

わたしは靴を脱いで砂浜を歩き、貝殻を拾った。
 

規則正しい波の音が、耳の内側で鳴っているように沁み込んでくる。


「見て見て。きれいな貝」


わざと大げさに明るく振舞い、貝殻を見せびらかした。


――『葵、はしゃぎすぎ』

って、また昨日みたいにからかってくれることを、期待して。


だけど瑠衣は少し離れた場所から、静かに微笑んでうなずくだけだった。


そろそろ帰ろう、と言われることが怖くて、わたしはさらに貝殻拾いに熱中した。



「……もしもし?」
 

誰かから電話がかかってきたらしく、瑠衣は携帯片手に話し始めた。


「おう、栗島か」
 

砂に埋まった貝を掘り出しながら、わたしは聞いていないふりでしっかり耳を傾ける。


「うん、今は京都やけど。――え?」
 

砂の中からきれいな色の貝が出てきた。

瑠衣に見せよう、と思って振り返ると、青ざめた顔の彼と目が合った。


「――涼子が、妊娠した?」