露天風呂から見えるのは、今にも降ってきそうなほどの星空。

熱めの温泉からのぼる湯気が、漆黒の中に溶けていった。

最高の気分だった。

混浴じゃないから、ひとりなのが寂しいけれど。

……って、混浴だったらそれはそれで、困るけど。



浴場を出ると、湯上り処にすでに瑠衣がいた。


「おまたせ」

「おう」
 

お互いちょっと顔が赤くなってるのは、たぶん温泉のせいじゃない。


初めて見る、浴衣姿……。

肌触りのよさそうな紺色の浴衣を着た瑠衣は、変な言い方かもしれないけど、ドキッとするほど色っぽい。


「それ、似合ってるやん」
 

瑠衣もわたしの藤色の浴衣を、喜んでくれた。
 

泊まった部屋はふたりで使うには広すぎるほどの和室で、壁一面の大きな窓から、夜の砂浜が見えた。


「すごい。海がすぐそこ」

「西向きやから夕日もきれいなんですよ」
 

仲居さんが料理を並べながら、親切な口調で教えてくれた。


「いいなあ。素敵」

「俺は夕日より、やっぱ飯やな」
 

瑠衣は子供のように、テーブルの上の料理に目を輝かす。


「ごゆっくり召し上がってくださいね」
 

仲居さんはそんな瑠衣にクスクス笑いながら部屋を出ていった。

たぶんあの人にとっては、瑠衣は息子くらいの年齢だろう。
 


海と山の幸をふんだんに使った夕食は美味しくて、けっこうな量にもかかわらず、ふたりともぺろりとたいらげた。

ビールも、何本か飲んだ。

瑠衣は大学に入ってから当たり前のようにお酒を覚え始めている。


こうやってどんどん大人になっていくんだ。


その過程を、わたしはそばで見続けられるのかな……。

 




食事を終えると仲居さんが布団を敷きにきてくれた。
 

二組の布団の間は、ぴったりとくっついて距離がない。


「では、ごゆっくり」
 

食事前と同じ台詞だったけど、なんだか別の響きに思えてしまう。