「何? いきなりどうしたん?」
 

ホームまで来てやっと足を止めたわたしに、瑠衣は不思議そうな顔をして言った。


「何かあった?」
 

見下ろしてくる、心配げな顔。

……こんなときでも愛しい、その顔。
 

ねえ、瑠衣。

さっきの涼子ちゃんの話は嘘でしょう? 

嘘だよって言って。

大丈夫だよって、言ってよ。
 

――けれどそうじゃない答えが返ってくるのが怖くて、わたしは何も尋ねられなかった。



「ううん。何でもないよ」
 

たぶん、このときの作り笑いがわたしの人生で一番完璧だった。


「旅行が楽しみすぎて、早く電車乗りたかっただけ」

「はあ? でもまだ電車来てへんやん」
 

瑠衣は吹き出して笑った。


「あはっ。そうやね」

「葵はアホやなあ」
 

あきれたように言いながら、瑠衣の瞳からは優しさがいっぱいあふれてる。
 

ねえ。
大丈夫だよね?
 
信じていいんだよね?


「瑠衣」

「ん?」

「旅行……最高の思い出にしようね」
 

こんな不安なんか吹き飛んじゃうくらいに、頭の中、瑠衣でいっぱいにしてほしい。


「おう。当たり前やんか」
 

そう言って笑う瑠衣の顔は、出会った頃よりも少し大人になっていた。
 

大丈夫。

わたしにだって、瑠衣と過ごしてきた時間があるんだから。


大丈夫だ……。