顔を上げたわたしは、きっと真っ青な肌色をしていたはずだ。
 

あんなに晴れていた空にはいつの間にか雲がたちこめて、太陽がすっぽりと隠れていた。


「瑠衣と旅行ですか?」
 

わたしの肩にかかったバッグを一瞥して、涼子ちゃんは鼻で笑った。


「まだ付き合ってたんや」

「……何が言いたいの?」


冷静な声を出そうとしても、喉がちっとも言うことをきいてくれない。


じゃあ単刀直入に、と涼子ちゃんは前置きして言った。


「早く瑠衣と別れてよ」

「……」


この状況は、何?


安っぽいドラマの世界に放り込まれた気分。

だけど台本なんかないから、わたしは次の台詞が出てこない。


「子供の頃から、わたしはずっと瑠衣が好きやったのに。
他の女の子に取られるならまだしも、なんであんたみたいな女に」
 

彼女の声が、だんだん荒くなっていく。


「年下の男たぶらかして、コソコソ付き合って。
ホンマはわたしの気持ち、気づいてたんやろ?」
 

最低。と彼女は吐き捨てた。


“わたしが先生を守ってあげる”と以前言ったのと同じ、その口で。
 

涼子ちゃんは昂りすぎた感情を抑えるように深呼吸した。


「でもね。ホンマは瑠衣だって、先生にはうんざりしてるんですよ?」

「……え?」

「だって先生って、セックスできないんでしょ?」
 

――セックスデキナインデショ?
 

その言葉は、わたしを追い詰めるには充分だった。


なぜ彼女の口からそんな台詞が出てくるのか。

地面がぐらぐら揺れて、今にも倒れそうだ。