初めての子育てに奮闘中のミキ姉は、6月に結婚式をあげることになった。

憧れの、ジューン・ブライド。

すでにママなのに照れくさいけどね、と笑うミキ姉は、とっても幸せそう。



それぞれが、忙しくて。


それぞれに時間が流れていて。
 

なのにわたしは自分の周りの変化にばかり気をとられ、

ひそかに動き始めた運命の音を、また聞き逃していたんだ。








【ほんっとゴメン!】
 

メールでしつこくあやまってくる瑠衣に、わたしは思わず苦笑した。


【せめて2泊くらいはしたかったのにな。俺のバイトのせいでホンマにごめんな】
 

瑠衣があやまっているのは、ゴールデン・ウィークに予定していた京都旅行のこと。
 

当初はもう少しゆっくりできるスケジュールだったはずが、瑠衣のバイト先の都合がつかず、一泊になってしまった。

それを彼は気にしているのだった。


【全然いいよ。行けるだけで嬉しいし】

【ごめんな。短いけど、その分いっぱい楽しもうな】

【うん☆】


初めての瑠衣との旅行。

行けるだけでも本当に、じゅうぶん幸せだった。
 

京都にしようと提案したのは瑠衣の方だ。


――『なるべく近場がええかな。葵との思い出の場所は、何回でも訪れたいから』
 

それは、未来も一緒にいるという約束のようで。


こんなに幸せなのに、旅行の日程が短くなったくらいで文句言ってたら、バチが当たってしまうと思った。





 
4月の後半は、そわそわとカレンダーを見る毎日だった。
 

早くゴールデン・ウィークにならないかな。

京都に行ったらどこを観光しよう? 何を食べよう? 
そんなことばかり考えて、ひとりでニヤニヤしたりして。
 

瑠衣との約束なら、それが果たされるまでの時間すら、至福のときに感じられた。

 



待ちに待った、5月3日。
 

天気はパーフェクトな快晴で、まるで神様からのプレゼントのような美しい青空が広がっていた。
 

待ち合わせは朝の9時に新大阪駅。

カメラとお菓子をバッグに入れて、少し早めに家を出た。