「瑠衣。やめて……」
 

言葉は当然のように無視される。
 

やめる意思がないことを示すように、手首をつかむ力が強くなった。

痛い。

わざと痛くされているのだとわかった。
 

首筋に息がかかる。

そのとたんに湧き上がる、強烈な嫌悪感。 


わたしは必死で体をバタバタさせて、そこから逃れようとした。



瑠衣を拒みたいわけじゃない。
 

瑠衣が嫌いなわけじゃない。
 

なのに、受け入れられない。


怖い。怖い。怖い。



「――…」
 

ふっと手首が解かれた。


わたしは涙でかすんだ瞳を、恐る恐る開く。
 

すぐそばにある瑠衣の瞳にも、涙がにじんでいた。
 


……瑠衣も、痛いんだよね?
 

ごめんね。
 
ごめんね。
 


どうしてわたしは瑠衣を受け入れられないんだろう。
 

どうしてわたしは大好きな人に抱いてもらえないんだろう。
 

どうしてわたしは普通の人にできることができないんだろう。
 

どうしてわたしは叔父から虐待を受けなくちゃいけなかったんだろう。
 


瑠衣とわたしは同じ部屋で泣いているけど、決して同じところを見てはいない。
 

ふっと体の圧迫感が消えた。
 

瑠衣はわたしから離れると、何も言わずに部屋を出て行った。








――ほら。やっぱりこうなったでしょう?


――欠陥品のくせに人を愛そうとするから、こうなるんだよ。
 


さっきからわたしの頭の中で、誰かがしゃべり続けている。
 

わかっているから、やめて。

わたしは手のひらで顔を覆い、泣きじゃくる。
 

だけどこの声は誰にも届かない。
 
6歳のわたしには、声なんかない。




玄関のチャイムが鳴ったのを無視していると、そっとドアが開いた。


瑠衣が戻ってきてくれたんだろうか。

ろくに働かない頭で反射的にそう思いつき、顔をその方向にむけて見たら、卓巳だった。