「えっ、マジで?」


急に周りも話に割り込んできた。


卓巳は気にとめない様子で、ニコニコしながらビールを飲んでいる。

迷惑かけてるなあ、と申し訳なくなった。


「違うよ。彼氏は年下やもん」

「じゃあ結婚はまだ先って感じ?」

「だね」


面倒くさい恋愛話は、そこで終わったと思ったのに。


「いっそのこと子供でも作れば、彼氏も結婚考えてくれるんちゃう?」


たぶん、直子にとっては何気なく言った一言だったんだ。


けれどあからさまに顔がこわばったのが、自分でもわかった。


「こらこら、子供は結婚のための手段ちゃうやろ」


卓巳が咎める様に間に入った。


「あ、そういえば卓巳って、男手ひとつで子育てしてるんやっけ?」


直子はお酒の勢いのせいか、そんなことまで尋ねだす。

ちっとも嫌な表情を見せずに受け答えする卓巳は、やっぱり大人だ。


わたしは、彼みたいには流せない。


――『いっそのこと子供でも作れば』


正直すごく不快だった。

道徳的な意味で、じゃない。


“セックスもできないわたしが、どうやって子供なんか産むの?”


そんな気持ちが渦巻いて、直子に、そして自分以外の女たちに、憎悪すら感じた。


もちろん周りはそんなの知らないんだから、仕方のないことだけど。


“子供――”


わたしには一生、叶わないかもしれない願い。


なのにあんなにあっさり言われたことが、悔しくて泣きそうだった。







一次会が終わり、次の店に行こうと誰かが言い出したけれど、わたしはその輪をさりげなく抜け出した。
 

早くひとりになりたかった。

これ以上、母親になった友達を見たくないし、当然のようにいつかわたしも子供を持つと思われている中に、いたくなかった。
 


歩いて駅に向かっていると、後ろから追ってくる足音があった。