部屋に戻ったとき、思わず体がビクッと跳ね上がった。
 

パソコンの灯りだけがともるリビングに、ぼんやりと立つ人影。


「あ……瑠衣」
 

それが彼だということに気づいて、胸をなでおろす。
 

けど、すぐにまた不安が押し寄せた。

瑠衣の表情があまりにも硬かったから。


「葵、どこ行ってたん?」
 

怒っている顔じゃない。

だけどわたしはこの表情を、何度も見たことがあった。
 

焦燥と、心配と、寂しさがごちゃ混ぜになった顔。


「あの、ちょっと散歩に行ってたの」

「そう」


小さくうなずいて、瑠衣はわたしの髪を撫でた。


「寒かったやろ? 風邪ひくで」


優しい言葉とは裏腹に、彼の瞳はちっともわたしを温めない。


「……瑠衣?」
 

いきなり服の中に手を入れられた。
 
驚きよりも先に、拒否反応が湧き上がった。


「ちょっと……待って」


さっきまでベッドにいたはずの瑠衣の手は、なぜかわたしの体と同じくらい冷えきっている。


「葵」
 

こんなに低い声で名前を呼ぶ人だっただろうか。

ほの暗い部屋で動く彼の姿が、急に別人に見えた。


嫌だ――。