誰だろう、こんな夜更けに。

疑問に思いながら画面を見て、表示されている名前に、ホッとした。


「もしもし」

『あ、水野? こんな時間にごめんな』
 

卓巳の声。

なぜかわたしを安心させる声だ。


「どうしたん?」

『いや、ほら、明日の同窓会、どうするんかな~って思って』

「同窓会?」


言われて思い出した。

そういえば明日、高校の同窓会があるんだった。


「うん……行くよ。卓巳は?」

『俺も行く』

「卓巳が来たらきっとみんな喜ぶんちゃうかな」


話していると少しずつ気持ちが落ち着いていった。

電話越しでも彼の声は安心感をもたらしてくれる。


だけど“安心”っていうのは、つまり気がゆるむってことで。


うっかり泣いてしまいそうになり、わたしは話を切り上げた。


「じゃあ、また明日ね」

『うん。――あ、水野』


電話を切る寸前で呼び止められ、離しかけていたスピーカーを耳にあてた。


「何?」

『……もし俺の勘違いやったら悪いけど』
 
そう前置きして、卓巳は言った。


『お前、泣いてた?』
 

なんでそんなことわかるんだろう。


まだ泣いてはいなかったけど、あくまで“まだ”だ。
 

どうしてそれが、声だけでわかってしまうんだろう。


「……ううん。何もないよ」

『そっか』
 

たぶんこの人には下手な嘘なんて通じない。

だけど、ぎりぎり強がってみせた。


そうしなければすぐにでも崩れてしまいそうだったから。