ある夜、嫌な夢を見た。
 

広い、広すぎる部屋で眠っていると、誰かの手がわたしの体にかかる。


痛みに襲われ逃れようとするけれど、
こんどは部屋の壁が迫ってきて、身動きもできなくなる。


そんな夢だった。



……目が覚めたとき、涙で髪が濡れていた。
 

真夜中の暗い部屋はまだ夢の続きにいるようで、しゃくりあげて泣きそうになるのを、わたしは懸命にこらえた。
 

隣には瑠衣が眠っている。
 
そのことがよけいに、胸を苦しくさせた。


この世で一番愛しい人と寄り添いながら、どうしてあんな夢を見てしまうんだろう。


もっと優しい、もっと温かい夢が、どうしてわたしには訪れないんだろう。
 


冷蔵庫からミネラルウォーターを出して飲んでいたら、ふと、リビングのテーブルに置いたノートパソコンが目に入った。


わたしは誘われるように手を伸ばし、電源を入れた。


隣の寝室で眠る瑠衣に気づかれないよう、部屋の灯りは消したまま。

パソコンの画面が白っぽい光を放ち、インターネットに接続する。
 

キーボードの上で指がさまよった。

何と検索すればいいのかわからない。
 
だから、今自分の胸にあるモヤモヤを、そのまま入力した。



【セックス 嫌悪感】
 


あいまいだったものが文字になって目に入ると、急に背筋がぞっとした。
 

嫌悪感……。


そうなんだ。

もうごまかしきれなくなっていた。


わたしは瑠衣と触れ合うことに、もはや嫌悪を抱いている。
 


検索結果が画面いっぱいに並んで表示された。
 

内容は、思った以上に雑多だ。


性行為そのものに抵抗を感じるという人の日記や、セックスレスの悩みを語り合う掲示板、
心理カウンセラーを紹介するホームページもあった。