「……ごめん」
 

はっきりと傷ついた表情をして、瑠衣はすぐにあやまった。


今までも、何度こういう顔をさせてきただろう。

瑠衣はわたしに気を使うのに慣れている。

わたしの傷を背負うことに、早く慣れようとしている。
 

空気が重みを持って、全身にのしかかっているみたいだった。


「わたしの方こそごめん。ちょっと今日は、まだ頭がパニックっていうか」

「うん。しゃあないよ」
 

やわらかい両腕に再び包まれた。


自分がひどく硬直していたことを、そのとき知った。
 



それから数日が経っても、叔父たちの行方は依然としてわからなかった。


人がふたり消えるのなんて、案外簡単なんだ。

残された者に与える影響に比べ、あまりにも軽い現実に、頭が痛む。
 

瑠衣は毎日わたしの部屋を訪れるようになった。


気を抜けばすぐにでも倒れそうなわたしを、懸命に励まし、元気づけようとしてくれた。



彼の気持ちに、ちゃんと応えたかった。


彼の望む反応を返せる自分に、なりたかった。


だけどできなくて、苛立って。


そんなわたしを映す瑠衣の瞳を、数年前にも見たことがある気がした。
 


わたしはまた、愛する人に“あの苦しみ”を味あわせようとしているんだね。







始まりは、あまりにも突然だった。




「葵」
 

服を脱ぎ捨てながら、耳元でささやかれる名前。


こう呼ぶことにも呼ばれることにも、わたしたちはすっかり慣れていた。
 

瑠衣の指が腰のラインに沿って降りていくと、わたしはこれから与えられる感覚に備え、まぶたを閉じた。