『いきなりどうしたん?』

「いや、ほら。お正月に帰ったときも、叔父さんたち忙しくて来てなかったし」

『それが……最近はほとんど連絡とってないんよ。
経営してる工場が危ないらしくて、それどころじゃないみたい』
 

お母さんの声がヒソヒソと小さくなった。

きっとそばにお父さんがいて、話しづらいんだろう。


「そっか、わかった」

『何かあったん?』

「ううん。久しぶりに叔父さんに会いに行こうかと思っただけ。
今は大変そうやから、落ち着いてからにするよ」
 

そう言ってわたしは話を終わらせた。
 

電話を切って隣を見ると、疑問たっぷりの瑠衣の顔があった。


「葵……」

「わたしもね、前に進みたいねん」


彼をまっすぐに見上げて言った。


「何もしないまま過去に怯えるのは、もう嫌なの」

「でも叔父さんに会うんは危険やろ。またトラウマが――」

「よみがえると思うよ」


瑠衣は言葉をのんだ。


「きっと苦しいし、会ったからって解決するとは、わたしだって思ってへんよ。
でも何もしないまま過ごしていたら、今までと同じことになってしまうから……」
 

ぎゅっとまぶたを閉じて、わたしは言った。


「いつか、瑠衣に抱いてもらえなくなるから」

「……」


こんなことを言うわたしを、瑠衣はどう思うかな。

先のことを予測して不安になるなんて馬鹿げてる、そう思ってあきれたかもしれない。


だけどこのままじゃ、いつか必ず“その日”がやって来るんだよ……。
 

心が近づけば、体が離れる。

瑠衣とは、そんな終わり方をしたくない。


「心配しなくていいからね」


いかにも心配そうな瑠衣に、先回りして言った。


「瑠衣が頑張ってるように、わたしも頑張りたいねん」


だけど、声が震えていた。