『んー。最低ってわけではないけど』


数日後、電話で卓巳に相談すると、返ってきた答えはこうだった。


『あんまり褒められた感情じゃないわな』

「……だよね」
 

わたしだって、自分のエゴが嫌になる。

涼子ちゃんのことを恋敵みたいに思いたくないのに。
 

そもそも瑠衣と涼子ちゃんはずっと親友で、ふたりの仲が気まずくなった原因はわたしだ。


だからふたりには仲直りしてほしいのに、その光景を想像すると、情けないほど怖くなった。


――『片瀬くんには、絶対もっといい子がいるから』
 

半年前に自分が言った言葉が、心に重くのしかかる。


あのとき瑠衣は、わたしの言葉を否定してくれたけれど。

いつか彼だって、そうだよなって気づくときが来そうで怖いんだ。


瑠衣は、毎日をすごい成長のスピードの中で生きている。

明日の彼はもうわたしなんか見ていないかもしれない。

1年後の彼は、別の女の子を想っているかもしれない。
 

子供時代のトラウマに囚われて過去を生きているようなわたしは、置いていかれるかもしれない。



『でもそれって、おかしくないか?』
 

卓巳が言った。


『ふたりで乗り越えるって誓ったんやろ? 
でも結局、問題はお前自身にあるっていうか』
 

的を射た言葉に、わたしは思わず黙ってしまった。


『お前はトラウマのせいで、自分が“普通じゃない”って思ってるんやろ? 
それで相手のことまで疑心暗鬼になるのは、おかしいで』
 

本当にその通りだと思った。
 

わたしは自分で背負わなきゃいけない部分まで、瑠衣に頼っていたんだ。

彼がわたしの過去を受け入れて、支えてくれようとしているのをいいことに。


『あ……。なんか俺、水野の気持ちとかわからんくせに偉そうでごめんな』
 

しゅんとした声であやまる卓巳は、わたしの気持ちはわからないかもしれないけれど、わかろうとしてくれている。
 

7年前、わたしを献身的に守り、そしてわたしに裏切られた人。

言葉の重みが、そのまま心に響いてくる。