「水野って、弟いたっけ?」


何の思惑もない声で卓巳が言った。


「いないよ……」

「じゃあまさか彼氏とか?」


冗談っぽく言って、卓巳の顔がこちらを向く。

だけどわたしと目が合うと、ふっと表情が硬くなった。


「え……マジか?」

「うん」

「あ、そうなんや。へ~、すごいやん、年の差恋愛やな」


明るくそう言うけれど、ぎこちない卓巳の口調。


わたしはクッキーのお皿をテーブルに置いた。


「彼ね、高校3年生やねん。前の予備校で出会って……また、再会したの」

「じゃあ、水野が言ってた、好きな男って――」


静かに微笑み、わたしはうなずいた。


「そっかあ……」


卓巳はもう、ビックリしたことを隠す様子はない。

目をパチパチさせてソファに座った。


「まあ正直ちょっと驚いたけど、俺は水野が幸せになってくれたら嬉しいから」

「ありがとう」


その言葉に照れ笑いして、卓巳はクッキーに手を伸ばす。

そして、ふと気づいたように動きを止めた。


「でも」

「ん?」

「水野、大丈夫なんか?」