「先生」


瑠衣が呼ぶ。なつかしい響き。


「俺ら絶対、運命やねんて」

「運命?」

思わず笑った。


「そう。……やから、そろそろあきらめてよ。
先生は俺と一緒じゃなきゃアカンねん」
 

子供じみた、だけどあきれるほど幸せな言葉。

今日みたいな日に言われれば、信じられるような気がしてしまう。


「それと俺、もう片瀬じゃないから」


瑠衣はわたしに向かい合って言った。


「親の離婚が成立して、今は母さんの苗字になった」

「じゃあ……何て呼べばいい?」


「瑠衣」


「………」


ルイ。


世界一愛しい、素敵な名前。



「じゃあ……わたしのことも、もう先生って呼ばないで」


「うん。――葵」


また、涙が出た。
 
その涙を瑠衣は唇で拭った。


「葵」


アオイ――…。

 


死んだお父さんがつけてくれたその名前を

数年ぶりに、愛しいと思えた。