目の前で閉じる扉。

せまい、せまい密閉された空間。


声すら出ない。

ふりかえることも、できない。


わたしは“開く”のボタンを押そうと、とっさに手を伸ばした。

けれどまた後ろから片方の手をつかまれて、指先はむなしく5階のボタンをかすっただけだった。


ゆっくりと、エレベーターが上昇を始める。

永遠に続く長い時間にも、まばたきするほどの短い時間にも思えた。


ランプがついた5階で止まり、扉が開く。


資料室のフロアは人影がなく、静まり返っている。


「先生――」


はっきりと響いた声。


瑠衣は突然わたしの肩を強く抱き、エレベーターを降りた。

抵抗もできずに、体がさらわれた。

足がフラフラして自分じゃないみたい。


瑠衣の手が資料室の扉にかかる。


電気もついていないその部屋に

わたしは押し込まれてゆく――。



激しい音を立てて資料室の扉が閉まるのを、耳のそばで聞いた。



「……なんで」


背中を壁に押しつけられたわたしは、ひび割れそうな細い声でつぶやく。


「なんで片瀬くんが――…」


それ以上はもう、声にならなかった。

ふたつの熱い唇がぶつかって、溶けた。