この予備校で働き始めて、今日で4日目。

少しずつ授業の勘みたいなものが戻ってきた気がする。



広い教室は生徒の顔がわかりづらいけれど、

ちゃんとひとりひとりに気を配れば、その子がどれだけ授業を理解しているかが見えてくる。


消化不良の顔をしていた生徒が、すっきりした顔に変わる瞬間は、言いようのない達成感を味わえた。


やっぱりわたし、この仕事が好きなんだ。







その日の授業も無事に終え、わたしは教室を出た。


少し生徒と話していたから遅くなり、校舎の中に人影は少なくなっていた。


エレベーターに乗り込み、教員室がある2階のボタンを押した。

ゆっくりと下降し始めたエレベーターは、高校生の教室がある3階で一度止まった。



扉が開く。


3階から乗ってきたのは、女の子ふたり組。


そして――

白いシャツを着た男の子だった。




せまいエレベーターの中で、顔を見合った。


自分の目が、おかしくなったのかと思った。




「……水野、先生?」



鼓膜がしびれてしまいそうなほど愛しい声。


全身の血が逆流したように、ドクリと音を立てた。



なぜ――? 

頭を飛び交うのはその言葉だけ。


なぜ、

瑠衣、あなたがここにいるの?



「……でさあ」


女の子の話し声で我に返る。


いつの間にかエレベーターは2階に到着し、誰も降ろさずに扉を閉めていた。


そしてさらに下降して、一階に着く。

女の子たちがおしゃべりしながら降りていく。


わたしも……わたしも降りなくちゃ。



だけど後ろから手をつかまれて、動けなかった。