「水野先生って、前もどこかで教えてたんですか?」

「うん。他の予備校で3年間」

「やっぱり、それでかあ」


納得したように大きくうなずく生徒。


“やっぱり”って、どういう意味だろう? 


少し不安になるわたしに、彼は言った。


「水野先生の授業、すごいわかりやすかったです」


「――…」




――『俺、英語は水野先生の授業が一番好きです』




さわさわと髪を揺らす風のように、
気づけばそこにある記憶。



色褪せることのないあの日々を、

これからもきっと、わたしは思い出すんだろう。




「ありがとう……。一緒に受験がんばろうね」



そう言うと、生徒は目を輝かせてうなずいた。











【おっす。新しい職場はどうや?】


卓巳はいろいろと心配して、まめにメールをくれた。


【まだ入ったばかりやから慣れないけど、すごい充実してるよ。
わたしのこと室長に紹介してくれて、本当に感謝してる。ありがとう!】

【気にするなって。こんど奢ってくれればいいから♪】


クスクス笑いながら携帯を閉じて、わたしは今日も授業に向かう。