7月。

卓巳の紹介で、わたしは再び予備校の講師になった。


新しい職場は前の予備校よりも規模が大きく、ちょうど夏期講習が始まる時期ということもあって、すぐにわたしを採用してくれた。



「うちは各階で教室を分けています。
3階が現役高校生、4階が高卒生の専用フロア。
自習ルームや教員室は2階で……」


卓巳の知人だという室長に校舎の案内を受けながら廊下を歩く。

休憩中の教室からは生徒の話し声が聞こえてきた。


なつかしいな、この感じ。


いろんな高校の制服や私服姿の生徒が交じって、教科書を開いたり、携帯片手におしゃべりしたり。


窓ガラスのむこうに広がる夕焼け空は、授業の間にどんどん暗くなっていくんだ。



「これから夏期講習でかなり忙しくなるので、水野先生に来てもらえて助かりますよ」


室長は白髪まじりのヒゲをなでながら言った。


「そんな……。わたしの方こそ、また教壇に立てるなんて夢みたいです」

「よろしくお願いしますね」

「はい!」





約半年ぶりの授業は、やっぱりかなり緊張した。

教室は前の予備校より広く、生徒の数もケタ違いに多かった。


最初に授業をしたのは高卒生のクラスだ。

さすがに生徒たちの態度は真面目で、静かに聞いてくれるのでやりやすかった。


「じゃあ、今日の授業はここまでです」


終了のチャイムを聞きながら、思わず長い安堵のため息が出た。


……久しぶりに教壇に立ったけど

大丈夫だったかな。

変な所はなかったかな。


あれこれ考えながら教材を整理していると、生徒のひとりが近づいてきた。