「うん、葵って昔から自立してるっていうか。
わたしなんか張りきって東京まで行ったけど、結局寂しくて早く結婚したいっていつも思ってたし」


思うだけじゃなく実現しているのが、ミキ姉のすごいところ。

でもそんなの自覚していない表情で、ミキ姉は続ける。


「だからね、葵がうらやましかった。
予備校やめるときも自分ひとりで決めて、自由だなあって」


……わたし、そんな風に見えるんだ。


違うのに。

わたしからすれば、ひとりの人と一生を共にすることの方が、よっぽどすごいことなのに。


「ミキ姉、あのね」


ん? とミキ姉は首を傾けた。


「わたし、予備校をやめたのは、好きな人から逃げるためやったんよ」

「……え?」

「生徒を好きになったの」


下唇をギュッと噛んでうつむいた。


どうしてこんなことをミキ姉に話しているんだろう。


わからない――

けれどたぶん、誰かに懺悔して、そして背中を押してもらいたかったんだと思う。



7歳も年下の高校生を好きになったこと。

友と呼べたかもしれない女の子を傷つけたこと。


そして、何も言わずに逃げてきてしまったこと。



「こんなわたしがセンセイだったなんて……許されるんかな」


「当たり前やん」


間髪入れずにミキ姉は言った。


「人を好きになったことを恥じる必要なんかない」


「ミキ姉……」

「少なくともわたしが生徒なら、人を愛せないような大人から何かを教わりたいとは思わないな」