5月。

世間はゴールデン・ウィークに突入したけれど、派遣のバイトでたまに働く程度のわたしには、あまり関係がない。



出産に向けて実家に戻ってきたミキ姉と、昼下がりのカフェに入った。


「あ~疲れた。最近さあ、自分の体が重くてほんと大変」


臨月を迎えたミキ姉は、まん丸のお腹を撫でながらフゥッと息をつく。


「健太さん、東京のおうちでひとりやから寂しがってるんちゃう?」


メニューを広げてわたしは言った。


「全然そうでもないみたい。あの人、一人暮らしが長かったから女のわたしよりしっかりしてるよ」


心なしかふっくらしたミキ姉の顔は、すでに妻や母としての貫禄がにじみ出ている。

美容院で働いていた頃より短くなった髪を、耳の横でひとつに束ねていた。


「あ~あ。ついにミキ姉までお母さんになるんかあ」

「どうしたん? 不満そうやん」

「いや、もちろん嬉しいけどさ。またお父さんから急かされるなあって思って。
“次は葵の番やな”ってそればっかり」

「きっと早く安心したいんだよ」


そうだろうなあ、とすごく納得した。


お父さんは、自分がわたしたちの本当のお父さんじゃないから、いまだに少し不安なんだと思う。


わたしが家族というものに憧れを抱かないのは、別にお父さんのせいじゃないのに。



「でも、わたしは葵がうらやましいって思ってたよ」


ふいにミキ姉が言った。


「うらやましい?」