「それで自暴自棄になって講師の仕事もやめたとか?」

「うん。まあそんなとこ」


本当は少し違うけれど、うなずいておいた。

教師として生徒たちと真剣に向き合っている卓巳に、彼のことを話せるわけがなくて。


「水野さあ、もっかい予備校で働いてみたら?」


卓巳は急にそんなことを言い出した。


「今日、動物園で莉奈にいろいろ教えてる姿を見てて、思ってん。
たぶん水野はもっかいセンセイに戻った方がいいって」


「卓巳。何、言ってんの?」


「冗談言うてるわけちゃうで。
俺の知り合いにな、予備校の室長やってる人がいるねん。
講師が足りてへんらしいし、水野さえよければ紹介するからさ」


もう一度……講師に?


たった数ヶ月前までの日常がふっと頭によみがえり、なつかしさに目がくらみそうになる。


でも、ダメだよ。

こんなわたしが教壇に立つなんて、許されるわけがない。


「……考えとく」


わたしは気のない返事をして、その話を終わらせた。