そう言われて思わず手を差し出すと、莉奈ちゃんははっきりと意思を持った動作で、わたしの方に体重を預けてきた。


「あ。泣きやんだ」


感動をストレートに表現した声で卓巳が言った。


わたしの胸元で莉奈ちゃんは再び寝息を立て始める。

涙で濡れた肌から、かすかにミルクの匂いがした。


「すごいなあ。水野にすっかりなついたな」

「でもこれじゃ帰れそうにないんやけど」


たしかに、とうなずく卓巳。


そして少し考えてから、車の外の町並みを確認して言った。


「さっき通った交差点を反対に曲がれば、俺んちまで10分ほどなんやけど」

「……うん?」

「晩メシ、うちで食べていけへん?」








てっきりお惣菜でも買って帰るのかと思ったら、冷蔵庫にある材料で卓巳は見事な晩ごはんを作ってくれた。


「すごい! さすが主夫」

「当然やっちゅーねん」


得意げに言って卓巳はエプロンを外す。


彼が食事の準備をしている間、わたしは何をしていたのかと言うと、ひたすら莉奈ちゃんの子守だ。

料理は正直からっきしダメなわたしは、悔しいけど卓巳を尊敬してしまった。



結婚していた頃に買ったというテーブルに、3人分の食器が並んだ。