莉奈ちゃんのために来た動物園だったけど、わたしも卓巳も久しぶりに子供に戻った気分で楽しんだ。


普段はテレビの中でしか見ない動物が、実際に目の前で動いていると言うのはやっぱり興奮するものだ。


ライオンのコーナーは、柵があるとはいえ少し怖かった。

猿の群れはひょうきんな仕草で、わたしたちを笑わせてくれた。


気づけばいつの間にか莉奈ちゃんはベビーカーの中で寝息を立てていて、結局、わたしたちが一番楽しんだという結果になった。



「今日はありがとうな」


帰りの車の中で卓巳が言った。


「ううん。わたしも普段は動物園とか行かへんから、楽しかったよ」


わたしたちはその日見た動物の話で盛り上がりながら、薄暗くなってきた町を走った。


徐々に近づいてくる、わたしのマンション。


「この辺でいいよ」

100メートルほど手前で言って、止めてもらった。

「送ってくれてありがとう」

「俺の方こそ」


後部座席のチャイルドシートで眠る莉奈ちゃんに、バイバイとささやいてドアを開ける。


そして片足を地面に着けたとき、莉奈ちゃんが突然、弾かれたように泣き始めた。


「あ……ごめん。起こしちゃったね」

「よしよし、莉奈。おいで」


卓巳が莉奈ちゃんを胸に抱き寄せてあやすけれど、一向に泣きやむ気配はない。

それどころか、短い腕をわたしの方へと懸命に伸ばしてくる。


「水野に抱いてほしいんかな」