『動物園、行けへん?』


そんな電話が卓巳からかかってきたのは、10日後のことだった。


『莉奈にな、本物のキリンを見せたいねん』

「でも0歳の子が動物園で喜ぶかなあ?」

『テレビとか本でキリンを見るたびにやたら反応してるからな。
きっと莉奈はキリンが大好きなんやと思う』


そんなわけで、日曜日のお昼に待ち合わせして動物園に行くことになった。


莉奈ちゃんが赤ん坊心にキリン好きなことはわかったけど、どうしてそれにわたしが付き合うんだろう? 

いまいち納得いかないけれど、特に予定もないしまあいいか、という感じ。


待ち合わせ場所の公園に行くと、ベビーカーに莉奈ちゃんを乗せた卓巳が待っていた。


「日曜に付き合わせてごめんな」

「いえいえ。どうせプータローですから」


カラッと答えるわたしに卓巳は柔和な笑顔を見せて、「ほら」と緑茶のペットボトルを差し出した。


「あ、ありがとう」

「そのメーカーのお茶が好きやったよな?」

「覚えてくれてたんや」


わたしの言葉には答えず、卓巳はベビーカーを押して歩き出す。


澄みきった青い空がどこまでも続き、春の陽がおだやかに首筋を焼きつける。

しばらく歩くと少し汗ばんできて、スプリングコートを脱いだ。


久しぶりの、ゆったりとした時間。


莉奈ちゃんを連れたわたしたちは、周りからどんな風に見えているんだろう。