「可愛い~!」
わたしは思わず黄色い声で叫んでしまった。
「もしかして卓巳の子供?」
「莉奈っていうねん。もうすぐ1歳」
卓巳は再び運転席に座ると、車を発進させた。
バックミラーに映る莉奈ちゃんの姿が気になって、わたしは後ろに体を乗り出してちょっかいを出す。
作り物のように小さい足の裏をくすぐると、莉奈ちゃんはキャッキャッと笑い声をあげた。
ミニサイズの体でしっかり反応してくれるのがおもしろかった。
「ねえねえ、お仕事の間、実家で預かってもらってたん?」
「うちは嫁がおらんからな」
前を見たままサラッと卓巳は言った。
「え?」
「莉奈がお腹におるときから離婚の話は出ててな。
あっちには新しい男がおったし、しゃあないわな。
生まれた莉奈は俺が育てることにしてん」
「そうだったんや……」
でも、じゃあその薬指のリングは?
奥さんには新しい男がいたかもしれないけど、卓巳は?
疑問がふつふつとわいてきて、だけど悲しい答えしか返ってこないのがわかるから、聞かない。
わたし……てっきり、卓巳は幸せなのだと思っていた。
家庭も仕事も順調で何もかも満たされた人が、上から目線でお説教してきているんだと勘違いして――
あんなひどいことを言ってしまったんだ。
「ごめんね、卓巳」
「なんで水野があやまるん?」
卓巳は不思議そうに笑う。
「ううん。何でもない」
莉奈ちゃんの小さな爪をなでながら、首を振った。
いつの間にか、ふたりの間の緊張は解けていた。
それはかつて恋人同士だった懐かしさからじゃなく、
たぶん、別々に生きた数年間を労わる気持ちが残っていたから。
スーツ姿の卓巳と、化粧をしたわたし。
真夜中の御堂筋は空いていて、あっという間に景色は移り変わっていく。
わたしは思わず黄色い声で叫んでしまった。
「もしかして卓巳の子供?」
「莉奈っていうねん。もうすぐ1歳」
卓巳は再び運転席に座ると、車を発進させた。
バックミラーに映る莉奈ちゃんの姿が気になって、わたしは後ろに体を乗り出してちょっかいを出す。
作り物のように小さい足の裏をくすぐると、莉奈ちゃんはキャッキャッと笑い声をあげた。
ミニサイズの体でしっかり反応してくれるのがおもしろかった。
「ねえねえ、お仕事の間、実家で預かってもらってたん?」
「うちは嫁がおらんからな」
前を見たままサラッと卓巳は言った。
「え?」
「莉奈がお腹におるときから離婚の話は出ててな。
あっちには新しい男がおったし、しゃあないわな。
生まれた莉奈は俺が育てることにしてん」
「そうだったんや……」
でも、じゃあその薬指のリングは?
奥さんには新しい男がいたかもしれないけど、卓巳は?
疑問がふつふつとわいてきて、だけど悲しい答えしか返ってこないのがわかるから、聞かない。
わたし……てっきり、卓巳は幸せなのだと思っていた。
家庭も仕事も順調で何もかも満たされた人が、上から目線でお説教してきているんだと勘違いして――
あんなひどいことを言ってしまったんだ。
「ごめんね、卓巳」
「なんで水野があやまるん?」
卓巳は不思議そうに笑う。
「ううん。何でもない」
莉奈ちゃんの小さな爪をなでながら、首を振った。
いつの間にか、ふたりの間の緊張は解けていた。
それはかつて恋人同士だった懐かしさからじゃなく、
たぶん、別々に生きた数年間を労わる気持ちが残っていたから。
スーツ姿の卓巳と、化粧をしたわたし。
真夜中の御堂筋は空いていて、あっという間に景色は移り変わっていく。