ふたりきりの車内はやっぱり気まずかった。


ハンドルを握る卓巳の横顔が、すっかり大人になっていたことは、よけいにわたしを息苦しくさせた。


もともと端正な顔立ちの人だった。

そこに男らしさが加わって、シンプルなグレーのスーツもよく似合っている。


「そういえば、高校の先生がなんで夜の繁華街で仕事してたわけ? 
こないだも店の近くにいたし」


沈黙の重さに耐えかねて、思いつきの質問をしてみた。


「まあ、見回りっつーか夜回りみたいな感じやな。
暖かくなってくると夜遊びする生徒が増えるねん」

「なるほど」


わたしも高校生のころは、しょっちゅう夜に家を抜け出して遊んでいたっけ。


あの頃、卓巳のように熱心な先生が近くにいなかったのは、幸か不幸かどちらだろう。



「ちょっと待っててな」


そう言うと卓巳は車を止めて出て行った。


よく見るとそこは卓巳の実家だった。

わたしは窓から彼の様子を眺めた。


彼は合鍵で玄関を開けて入っていくと、しばらく経ってから、赤ちゃんを抱っこして戻ってきた。


「お待たせ」


そう言って後ろのドアを開け、チャイルドシートに赤ちゃんを座らせる。