泣きすぎたあとは頭がぼんやりした。


涙はどれだけ流れても、悲しみを連れて行ってはくれない。

だけど、つかえていたものが少しだけ減った気がした。


「……落ち着いたか?」


自販機の缶コーヒーを差し出して、卓巳が言う。


「うん。ありがとう」


コーヒーを受け取り、しばらく手のひらの間で転がした。


「……ごめんね。変なとこ見せて」

「いや。たまたま仕事の途中で見かけただけやし」

「仕事って、警察?」


卓巳はプッと笑った。


「水野、こないだの話を信じたんや?」

「えっ? 嘘やったん?」

「嘘ちゃうよ。公務員ってのはホンマ。
ただし、高校のセンセイやけどな」


センセイ……。


その言葉を聞いて、いまだに胸に走る痛みがある。


「そういえば水野も予備校で教えてるって、噂で聞いたけど?」

「今は、もうやめたよ」


そっか、と卓巳は言った。


「俺そろそろ帰る時間やから、送っていくわ」

「いいよ」

「遠慮すんな。少なくとも俺は、こないだの男みたいに下心はないからな」


おどけたように言うけれど、ちっとも笑えない。


わたしは押し黙ったまま車に乗り込んだ。