本当は苦しいのに、もっともっと、とわたしはねだる。


男の下にいるはずのわたしの意識はなぜか外側にあって、男と一緒にわたしを追い詰める。


息が途切れて、意識が遠のいて、やっとわたしは許される。


この瞬間だけ、生きていられた。






ノブアキがシャワーを浴びている間に、先にひとりで部屋を出た。


疲れきった体で歩くホテル街には、寒いような暖かいような、曖昧な風が吹いていた。




胸にしまっていた思い出が、夜風に誘われるようにふと顔を出す。


1年前の春の夜……。


そうだ、あの日もこうして、ひとりきりでホテル街を歩いていたんだっけ。


たしかあれは、同僚の山崎先生とホテルに行ったとき。

ちょうど今日みたいな生暖かい南風が吹く夜で。


なつかしい。


そういえばあの日、笑ってしまうようなハプニングがあったんだ。

誰かさんの早とちりのせいで。


あのときは本当に驚いた。


だって、いきなり腕をつかまれて――…




「――なんでひとりで歩いてんねん!」



「……っ」 



一瞬、時が止まった。


タイムスリップでも、したのかと。

わたしが強く願うあまり、あの夜に舞い戻ったのかと。

本気で思った。



腕をつかむ力強い手。

叱るような言葉。

空の月も、漂う空気も、

あの日と一緒で――…。



だけど、目の前の顔を見て現実に戻る。