聞き覚えのある声だった。

ふり返ると、やっぱり見覚えのある顔だった。


「卓巳」

「は? 何あんた?」


同じ疑問がわたしの頭にもうずまいていた。


何? 

何しに来たのよ……。


すっかり盛り上がっていた男は、卓巳をにらみつけた。


「彼女はこれから俺と出かけるねん。邪魔すんなや」


男の右手が乱暴に卓巳の胸ぐらをつかみ上げる。


だけど卓巳は余裕のある表情で、至極冷静に言った。


「それ以上はやめといた方がいいと思うけど?」

「はあ!? お前、何様のつもりやねん」

「ただの公務員」


こうむいん? と男は一文字ずつ確認するようにつぶやく。


「――って、まさか」


男の顔が一気に青ざめた。

そして卓巳の胸もとから手を離し、早口でまくしたてる。


「別に俺はまだ、何もしてへんからな!
 その女が困ってるから親切に声かけただけやし」


男はそそくさと車に乗り込むと、一目散にその場を去っていった。



「……」


「水野」


名前を呼ばれ、ビクッとした。