しばらく粘っていると、近くの車から若い男が降りて声をかけてきた。


「俺が送ってあげよっか~?」

「けっこうです」


目も合わさず無愛想に答えているのに、男はしつこく食い下がってくる。


「遠慮せんでいいって」

「……」

「そんな格好じゃ風邪ひくで?
 なんか髪も濡れてるし、何かあったんやろ?」


しだいにわたしの中で、自暴自棄な気持ちが生まれてきた。


とことん、自分を落としたい。

自らを追い詰めたい衝動に、支配される。


「じゃあ、どっか連れて行ってくれるなら乗ってもいいよ。
今日は家に帰りたくないねん」

「え?」


男は一瞬驚いて、すぐに言葉の意味を理解すると顔をニヤニヤさせた。


「俺に任せといてよ」


腕をつかまれ、路上に停めた車の方へと歩き出す。



もうどうでもいいや。


今さら行きずりの関係がひとりやふたり増えたところで、何かが変わるわけでも、減るわけでもない。


失いたくないものなんか、わたしにはもう何も残っていないんだから……。



助手席のノブに手をかける。

そしてドアを引こうとしたとき、突然聞こえてきた声に阻止された。


「その子、僕の連れなんやけど、返してくれる?」