こいつらは何をこんなに怒ってるんだろう。

ていうか、どうして女ってこんなに面倒くさいんだろう。


数ヶ月前の苦い記憶が、ぼんやりと頭に浮かび上がる。


こんなのもう慣れっこだから、普段ならたぶん何も言い返さない。


だけどこのときは、心に余裕をなくしていた。


「……うるさいなあ」

「何?」

「うるさいっちゅーねん! そんなに客取られたくないんやったら――」


最後まで言い終わらないうちに、顔面に冷たさが広がった。


上から下へと、水の感触が伝う。

まつげについた水滴を拭いながら目を開けると、冷ややかな表情をした友香がそばにあったコップを掴んでいた。


髪も顔も見事にビシャビシャ。

しかもちょっとベタベタするし。
何入ってたんだよ、そのコップ。


「あんたなんか早く辞めればええねん」


そう言い残し、友香たちは更衣室を出て行った。


……最悪だ。


着替えすら億劫で、ドレスの上にスプリングコートを羽織り、わたしは店を飛び出した。





まだ終電がある時間だけど、タクシーを拾おう。

こんな姿じゃ電車になんか乗れない。


道路に身を乗り出して手を挙げるけれど、なかなかタクシーは止まってくれなかった。


こんな場所でこんな服装をした女は、近場の利用だと思われてだいたい拒否されるのだ。